被害体験が児童虐待に (日本教育新聞2012年10月22日)

暴力を防ぐプログラムを中学校の授業で行うと、家庭内の暴力にはどのようなもの があるか全員で意見を出し合う時間を設ける。どの学年でも「DV(家庭内暴力)」と「児童虐待」という言葉が子どもたちから出る。

しかし、言葉だけではなく、意味を正確に知る必要があるので必ず解説する。DV は親同士、主に夫(父親)が妻(母親)に振るう。児童虐待は親が子どもに振るう。 その中には食事を与えない、病気の時に医者に行かせない、安心できる環境を与えないなどのネグレクトも含まれることを伝える。身体的暴力にネグレクトを加えると、児童虐待の裾野は一気に広がる。

DVと児童虐待が連動している例もある。夫婦間の暴力に苦しむDV被害者が、児童虐待の加害者となってしまう。毎日自分に降りかかる暴力の中で、一日一日を必死に生き抜いている親には、子どもに正面から向き合う余裕がなくなる。

一方、10代の若い両親、何らかの理由で一人で子育てをしているシングルマザー、シングルファザーも増えている。生徒の7割近くが一人親家庭という小学校もある。その小学校では、多くの世帯が生活に精いっぱいで、困窮している。結果、イライラ を弱い者にぶつけることになる。

私たちが関わってきた児童虐待の事例では、加害者本人が被害体験を持っている。人は暴力を振るわれ続けるとうつ症状になることがある。行動面での表れとして、朝起きられない、食事が作れない、買いものに出掛けられない、そしてアルコール依存に陥るなどがある。

すると子どもは食事抜きで登校し、給食がその日唯一の食事になることもある。海外では給食がない週末を過ごすために、金曜日に緊急食糧パックを配布するところもあるようだ。

空腹で、風呂に入らず、服を着替えないで登校していれば先生は虐待を疑い、児童相談所に連絡する。一時保護をしてもらい、家族が安全に過ごせる生活環境を整えてから子どもを再び引き取ることが理想だが、現実は厳しい。子どもを預けて10年間引き取れない、その間、子どもは児童養護施設で育っていくという事例に接したことがある。

児童虐待はとかく加害者の残虐性が注目されるが、その背景にある社会的問題、精神的問題や生育環境などにも目を向け、支援をしていかなければならない。
なお、子育て支援事業はこの数年、行政の大きなテーマとなっていて、相談をはじめさまざまなサービスが提供されている。しかし、そのような情報が届かない人たちもいる。日本語が分からない外国籍の人、障害のある人たちもそうである。より細かく丁寧な情報提供が求められる。

湘南DVサポートセンター090-4430-1836(tryton@kodomo-support.org)