私は13年前にドメスティックバイオレンスの被害者支援を通し、暴力のある家庭に育つ子どもたちに出会ってきました。
彼らは、本来であれば一番愛してくれるはずの親、いつでも受け止めてくれるはずの家族、そして辛いことがあれば逃げ帰れる家庭がありません。親や家庭が一番怖い存在になってしまっているためです。
暴力がどれだけ子どもたちを不安にし、悲しませ、苦しめてきたか、そんなことを想像すると無力感に陥ることがあります。
その内の何パーセントは、われわれの手の届かないところにいってしまう。しかし、多くのこどもたちは学校に行きます。
彼らは、まだ10代の子どもたち。
自分の気持ちを誰かに聴きいてもらいたい年頃の子どもたちに、「苦しそうだなあ?」「解るよ、その気持ち!」というメッセージを届けたいと思い暴力防止プログラムを開発しました。
2006年の秋、神奈川県のある中学校の校長先生に「いじめを防止する授業を本校で試してみないか」と声をかけていただき、翌年の1月に“いじめ防止プログラム”が始まりました。
中学校バージョン (小学校は4時間)
プログラム | 内 容 |
全体講演会 | 対象学年の生徒、教師、保護者、地域の大人への講演会形式のワークショップ |
ワークショップ① | いじめの定義を生徒から出す。加害者像を考える。 |
ワークショップ② | グループで加害者上像を絵にして具象化し、暴力の背景にあるストーリーを作る |
ワークショップ③ | グループで個々の生徒が自分の好きな部分、努力していることを書き出し共有する |
ワークショップ④ | 人と人の境界の違いを知り、互いに尊重する。NO!という力とアサーション。 |
私たちが大切にしているのは、プログラムの全てを保護者や地域の方たちに公開すること。この授業には人権擁護委員、民生委員、主任児童委員、少年スポーツの指導者、学童保育の先生など、大勢の大人が参観します。この問題について、地域の大人たちに一緒に考えてもらいたいと思い、学校に公開をお願いしているからです。
プログラムは最初の1時間目の全体講演以外は全て各クラスごとのワークショップ。
5週間のいじめ防止プログラムの最終日、スクールバディを募集します。スクールバディとは、「生徒たちの力でいじめをなくす、居心地の良い学校を作る、誰もが笑顔で安心して通ってこれる学校にしたい」と活動するグループのことです。
スクールバディは個人の任意の活動なので、部活動や塾、習い事を調整しなくては活動できませんが、どの学校も学年で5%~15%程度の生徒が参加しています。
彼らには放課後、8時間のトレーニングが課せられ、トレーニングを終了するとスクールバディルームという活動室を与えられます。
人の前に立ち、自分の思いをしっかり伝える力や表現力が求められるため、トレーニングで学ぶのは、主にプレゼンテーションと心理学。主な活動は、劇を演じる、ビデオでドラマをつくり文化祭で発表する、昼休み放送でラジオ番組を流したり、ポスターや新聞を発行するなどです。
また、バディルームは相談室も兼ねているため、ときどき相談を受ける事がありますが、その時には、「スクールバディだけで解決しようとしない」、「相談者との信頼関係を築きながら先生につないでいく」などの技術を身につけてから活動に入るようにしています。
実際の相談は時たま訪れる生徒たちとの雑談の中で行われていますが、「相談内容の秘密は守るが、深刻な相談は先生につなぐ」というルールがどの学校のスクールバディルームにも掲げられています。
ある生徒は私に、「バディルームに行かなくてもスクールバディに相談すれば味方になってくれることは知っています。だから、今自分は登校出来ているんです」と言っていました。バディの存在そのものが他の生徒に勇気を与えているのだと思います。
いじめをはじめとする思春期の子どもたちの悩みの多くは、初期の段階で生徒同士の会話の中で発信されます。大人がなかなか気づくことのできないいじめもあります。その小さなサインに気づくのは生徒同士。彼らの力を信じてこれからもこの活動を続けていきたいと考えています。
特定非営利活動法人 湘南DVサポートセンター
理事長 瀧田信之