「傍観者」も苦しい(日本教育新聞2012年11月26日)                  

中学校で「いじめ防止プログラム」を実施する中で、いじめの被害者になったことがあるという生徒は4割弱、加害者の体験を持つ生徒は3割近くいることが分かった。驚いたことは、8割の生徒がいじめを見ていて何もしなかった傍観者だったと答えたことだ。そして、誰もが苦しかったと答えている。

 クラスのほとんどの子どもが何らかの形でいじめに関わってきて、傷ついてきたということである。ありのままの自分を表現すれば、皆からいじめられるのではないかと、びくびくして登校してくる。
最近は休み時間も誰とも話をせずに、まるで周囲の子どもたちの騒ぎや会話は「聞こえない」「見えない」と宿題をし、本を読み、机にしがみついているような生徒がクラスに数人いる。
彼らは一人孤独に耐えているように見える。周囲の誰も気にしていないし、彼らが不安を感じていることは手に取るように分かる。

 あるクラスで、いじめ防止のワークショップの最中に、数人が一人を操作し、ワークショップを妨害させたことがある。やらされている子にとってもクラスにとっても、いつもの光景だったようである。全員が無視し合っている。
私はワークを止め、生徒たちに聞いた。「今、この瞬間に起きたことがいじめだと思う」「皆はどう思う」「仲間の一人が操られていて、皆は何も思わない?」
全員がうつむいたまま、一言も言えない。しばらくすると、後ろで参観していた10数人の母親のうち、数人が泣きながら廊下に飛び出して行った。私は何が起きたか分からなかった。後で保護者からクラスの抱えていた問題がまさに噴出したことを聞いた。彼女たちは心配していた現実を目の当たりにして悲しくて思わず泣いてしまったという。

 この出来事がきっかけかどうか定かではないが、このクラスから、いじめ防止に立ち向かう生徒が多く出てきた。泣いてクラスを飛び出した母親が中心となって、学年で数10人がグループを作り、学校と地域を結び、風通しのよい地域づくりをするために活動を始めた。
子どもも大人も、いじめや暴力を他人の問題として見て見ぬふりをして生きている。しかし、情報をたくさん伝え、タイミングよくきっかけを作ることで生徒たちは大きな力を発揮することがある。
見て見ぬふりをしている自分が嫌だと言ってきた子どもたちが、何かをきっかけに、仲間を作り、互いに支えあうことで大きな力を発揮できる。そして、その力が保護者や地域をも動かすことがある。
クラスで始まる小さな「想い」の実現が、学校に広がり、さらに社会に出て行き大きなメッセージとなって広がることもある。そんな生徒たちに毎年出会っている。

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